《独占インタビュー》ハングル書芸家チェ・ルシアさん「一期一会の出会いを大切に一生懸命活動していきたい」

2021年1月の山形を皮切りとし1年かけて日本の12地域を旅するオンラインイベント「Meet Lucia 12 in Japan/ハングル書芸ワークショップ」を開催中のハングル書芸家チェ・ルシアさん。明るい笑顔が印象的なルシアさんにイベント体験後、インタビューしました。


◆ハングル書芸を始めたきっかけや時期を教えてください。

ルシア:「勉強ができる子になるよりも字がうまく書ける子になりなさい」という父の教えに影響されたこともあり、幼い頃から字を書くことが好きでした。中学高校時代にはペン字クラブで活動もしました。

大学生になって、何のサークルで活動しようかといろいろ迷いましたが書芸部に入ることにし、本格的に書芸を学び始めました。大学1年生から漢文の書芸を学びましたが、私の名前、ルシアが漢字語でないこともあり自然とハングル書芸を集中的に学ぶようになりました。


◆お父様の教えが印象的ですが、ルシアさんのお父様も書芸に関連した仕事をされているのですか?

ルシア:父は書芸に関連した仕事をしてはいませんでしたが、漢字の勉強をするのが好きでした。新聞の社説に出てくる漢字を「玉篇」(部首別漢字字典)で引き、私が大きな声で読み上げるといつも満ち足りた微笑みを浮かべていました。


◆ルシアさんにとってお父様はどのような存在ですか?

ルシア:寒さの厳しい冬の日、通学カバンを抱えて学校から帰宅すると、父は凍えた私の手を温かい手で包み込み、温めてくれました。また、父はトマトが大好物だった私のためにいつもトマトを買ってきては砂糖に漬けておいてくれました。

体は健康な方ではありませんでしたが、父は一日一日を大切に、自分の人生を懸命に生きる人でした。家庭への責任感を果たしながら誠実な人生を送る父の姿は私の人生にとても大きな影響を与えました。生まれてから父から受け取った愛は、今も変わらず私の人生を支えてくれる土台であると思っています。

大学3年生の時に父は亡くなりましたが、この世界が崩れ落ちてしまうかのような深い悲しみに襲われました。今でも父が恋しいです。

私が情熱を持って生きていこうと努力する理由は、父の自慢の末娘でありたいという気持ちもありますが、父と同じように一日一日を懸命に努力し続ける私の姿と、人生において自己を成長させ責任を果たす私の姿を父に見てもらいたいという気持ちがあるからだと思います。


◆これまでルシアさんが書芸活動を続ける上でお父様に影響を受けたことは何かありますか?

ルシア:字を書くということは長い時間と忍耐が必要な作業だと思います。誰かにその努力を認めてもらうこともなく、道を一歩ずつ黙々と歩き続けることは難しいことです。

父は平凡な人生を歩みましたが、生きることに対する意志と熱情、何かをしてみようとする意欲に溢れていました。私は父の生き方から多くのことを学びましたが、父が見せてくれた生き方を胸に、これからも自分が思い描く夢に向かって羽ばたき続けていきたいと思います。


◆ルシアさんがハングル書芸の魅力にハマり、書芸を極めたいと思ったきっかけは?

ルシア:大学卒業後、出版社に就職しましたが、朝出勤し夜帰宅する生活は性に合わないと感じ、1カ月で仕事を辞めました。書芸を極めたいという思いが強くなり書芸や英語、美術の勉強を再開しました。勉強を続ける中で美大に編入したいとも思いましたが、それは叶いませんでした。

その後、一番上の姉に勧められて書芸教室の講師の募集に応募しましたが、面接を受けに行ったところ講師ではなく書芸教室を運営してもらえないかと提案され、引き受けることになりました。

書芸教室は15年間運営し、その間も日々の学びは怠らず続けていましたが、字を書くことがただただ、幸せでたまりませんでしたね。ハングル書芸ワークショップを開催しながら様々な国を旅するようになったのも、有名な書芸家になりたいからではなく、ただ字を書くことが幸せで、字を書きながら世界をこの目で見てみたいという思いに駆られたからだと思います。


◆ハングル書芸の魅力を一言で表現すると?

ルシア:ハングル書芸の魅力はハングルそのものが持つ造形性と美しさを生かした字を表現できるところです。また、生活の中で芸術というものが身近に感じられることも魅力の一つだと思います。


◆好きな筆の特徴を教えてください。

ルシア:柔らかい感触の筆が好きですね。字を書く時は筆の毛1本1本の動きまで注意を払いながら筆の感触を楽しんでいます。


◆インスタグラムを拝見しました。太い筆を片手で持ち書く画像がいくつかありますが、片手で書く、と決まっているのですか?

ルシア:書芸パフォーマンスでは力強くダイナミックな姿を表現する時、片手で大筆を持ち、字を書きます。私は9年前からコンタクト・インプロヴィゼーションダンス(*1)という接触即興ダンスを学んでいますが、私の書芸パフォーマンスはこのダンスを取り入れたものなんです。

接触即興ダンスはパートナーとの接触により空間と体が出会い生まれる即興的な状況と、それに反応する体に集中するダンスですが、このダンスを通じて「体の動き」と「筆の動き」が互いに接触していることに気付いたんです。それがきっかけとなり、接触即興ダンスを取り入れたダイナミックなパフォーマンスを披露するようになりました。

(*1)コンタクト・インプロヴィゼーションダンス(Contact improvisation dance)は1972年にアメリカで生まれた即興ダンスの1つの形式。コンタクトは接触、インプロヴィゼーションは即興という意味。


◆ハングル書芸のしきたりや決め事などは特にありますか?

ルシア:ハングル書芸には板本体と宮体という2種類の書体があります。板本体の中心線は真ん中に、宮体の中心線は右側にありますが、この中心線を意識しながら書いていきます。

また、筆の運び方に慣れていくことも大切ですね。これらの点に気を付けながら書いていけばハングル書芸の美しさをよりいっそう表現することができると思います。


◆板本体と宮体、どちらの書体が好きですか?理由も教えてください。

ルシア:板本体も魅力がありますが、私は宮体を書くことが好きですね。端正で優美な縦画や横画の線を引く時には、ハングルの文字の清らかさと隠された美しさに思わずうっとりと見とれ浸ってしまうこともあります(笑)。


◆書芸を学ぶ中で壁にぶつかったことはありますか?

ルシア:字を書きながら壁にぶつかったことは数えきれないほどありますが、そんな時でもやる気を失くし練習をやめてしまうということはなかったです。逆にこれは成長するチャンスだと思い、ゆっくり、少しずつ心を落ち着かせては字の練習にいっそう励んでいました。

言語を学ぶ時も、ある瞬間に急に流暢に話せるようになるわけではなく、地道に勉強を続けているうちに少しずつ会話の幅が広がっていきますよね。書芸も同じなんです。

早く上手に書けるようになりたい、と気持ちだけが先走ってしまわないように、気を静め、字に自分の心をすべて注ぎ込むつもりで書くように心掛けました。不格好になってしまった字でさえ愛しくてたまらなかったですね。その字が本来あるべき形を見つけるまでひたすら書き続け、一睡もせずに夜を明かしたこともありました。


◆自分だけの字を書くために必要なことは?

ルシア:自分の字をありのままに愛すること、だと思います。他の人からうまいとかカッコいいとか思われるために字を書いているわけではないでしょう?伝統的な書芸の基本を踏まえた上で、自分なりの字を書いていけば十分だと思います。とはいってもオシャレなカッコいい字を書きたがる人が多いですけどね(笑)。

まずは自分のありのままの自然体を字で表現してみる。それを他の人々と共に分かち合っていけば、私たちみなが穏やかで幸せな時間を過ごすことができるだろうと思います。みなが自身の持っている考えや才能を表現し合って、共感し合いながら認め合い、明るい微笑みを交わし合う。私はそんな世界を夢見ています。


◆ルシアさんは何回か来日されたことがあるそうですが、どこを訪れましたか?

ルシア:かなり昔のことになりますが、書刻(木や石などに字を刻んだもの)の展示をするため東京に訪れたことがあります。13年前からは大阪に住む友達に会いに1年に1、2回ほど日本に訪れ、ハングル書芸のワークショップやカリグラフィー・コンサート、本(*2)の出版記念会を開催したりしました。

(*2) チェ・ルシアさんのエッセイ「멋글씨의 3가지 비밀(カリグラフィーの3つの秘密)」(2014年)


◆特に印象に残っているエピソードはありますか?

ルシア:書芸のレッスンに参加された方の中で、私と韓国語で話したいと1年間一生懸命勉強され、韓国語会話の実力がぐんと伸びた方がいらっしゃいました。書芸を教える側として何よりもやりがいを感じると共に、印象深い出来事でした。


◆好きな日本の漢字や言葉はありますか?

ルシア:「一期一会」という言葉が好きです。たとえ一生に一度の出会いだとしても、その瞬間が大切なものに感じられるからです。私が世界各国を訪問しながらハングル書芸の魅力を発信し続けている理由も実はそれなんです。ハングル書芸の美しさを伝えるためであることはもちろんですが、訪問先の国々での一つ一つの出会いがかけがえのないものだと感じているからなんですね。これからも一期一会の出会いを大切に、一生懸命活動をしていきたいと思っています。


◆好きなKpopの曲がありましたら教えてください。

ルシア:実を言うと最近の歌手の楽曲はあまり詳しくないのですが、IUさんが歌う「Autumn morning (가을아침)」が好きです。



◆韓国ドラマやkpopなどをきっかけに日本でも多くの方々が韓国文化に興味を持つようになりました。日本の読者に向けてメッセージをいただけますか?

ルシア:韓国のドラマや音楽、両国間の文化交流を通じて、お互いについて多くのことを知る機会が増え、嬉しく思っております。韓国語を勉強されている日本の方もたくさんいらっしゃると思いますが、今回のハングル書芸のワークショップがハングル書芸の美しさを体験する場となると共に、韓国文化をよりいっそう理解し字を書く楽しさと幸せを感じる機会となりましたら幸いです。


(text &translation:Akane Tanaka / 写真提供:チェ・ルシア)



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プロフィール

チェ・ルシア(최루시아)

1968年10月23日生まれ、韓国・忠清北道(충청북도)清州(청주)出身。

大学1年から「ハングル書芸」を本格的に学び始める。

ミュージカル『王家の紋章(왕가의 문장)』(2016年)のタイトル文字や書籍のタイトル文字、焼酎ラベル「좋은 데이(Good day)」(2006年)を始めとする多数の広告作品を手掛ける。ぺ・ヨンジュン主演映画『スキャンダル(스캔들)』(2003年)では女主人公チョン・ドヨンの手の代役を務めた。

2007年から日本で定期的に書芸ワークショップを開催。以後、台湾、香港、ベトナム、シンガポール、オーストラリアなど海外でも書芸パフォーマンスやワークショップなど精力的に活動を繰り広げている。


チェ・ルシアさんインスタグラム

https://www.instagram.com/meet_lucia/?igshid=101bkhi56r6z9

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